[ 2002.11.01 ]
昨夕現地入りしたばかりだが、会場の様子が日本では今一つよく分からず、持参した作品の数が、大幅に足りなくて急遽現場制作という予定外の事態となり、昨夜は遅くまでその原稿創りとなった。

七月二十五日、今日から二週間このナバラ州パンブローナ市の中心部にある城壁、旧要塞のウタデラ公園内会場に於いて、ナバラ・フェスティバル・ジャパンが開催される。東洋から初めてという事で、珍しさもあったのか午前中から多くの人々で会場は賑わった。

十一時のオープンに合わせ個展会場へ出かけた。石造りの二階建てで、一階は生け花グループの展示、私はその二階で広いスペースを独占、これから昨夜構想を 練った作品を二カ所の大きな壁面ボードに直接書くのである。入場者は増える一方でそうのんびり書くわけにもいかない。壁面の前に立ち作品の構成を考える。イメージが次々と変化する中、一気に書き上げ予想以上に面白い作品になった。カラフルな色調の作品と、赤と黒を基調の大作二点が出来上がり後方から大きな拍手が湧き起こった。本日オープニングセレモニーとして、私のパフォーマンスが夜八時半から組まれており、本番前の予定外パフオーマンスとなった。展示会 場は毎日午前十一時オープンし午後二時に一旦閉館、再び夕方六時オープンし夜九時までという流れで、昼休みが四時間という、日本では考えられない時間の取り方である。日暮れも遅く、暗くなるのが夜十時過ぎ、その四時間の休みを利用してホテルに戻りシャワーを浴び一休み、その後夜本番のパフォーマンスに向け 更に原稿を入念にチェック。何しろ考えていた原稿を昼間個展会場で使ってしまい、新たな構想を練り直ししなければならないのである。

夕方六時に 会場へ行く。お昼と違いすごい人々で賑わっている。パフォーマンスの会場を下見に行った。芝生の上にプラスティックの板を敷き詰めその上に白い厚手の布地 がずれないようにきちんと固定してある。筆や水性ペイント類、容器その他必要なものを確認する。八時半の開演までにはまだ三十分程時間があるがもう現場に は数十名の人がキャンバスの周りに集まっていた。地元の画家で友人でもあるコルド・セバスチャン氏も仕事先から駆けつけてくれた。今日のパフォーマンスで音楽を担当してくれるはずの地元ミュージシャンが病気のため演奏が出来なくなったとの連絡が入り、急遽テープ音楽に変更された。開演を待ちきれない大勢の 人々で会場は膨れ上がった。やがて静かに日本の童謡がテープを通して流れ出した。私は敷き詰められたキャンバスの前に立ち、作品のイメージ、そのポイントをキャンバスに定着させる動きに入った。その所作が丁度太極拳の動きに似ているとよく言われる。相撲でいう立ち会い前の仕切直しみたいなもので、イメージ が定着し気が乗った時に一気に勝負に出る。作品が大きいだけに中途半端な態度では物は作れない。しかも大勢の前で失敗は許されない。こうした緊張感の中で の真剣勝負、体力との戦いはキャンバスとの格闘技と言えるかもしれない。一旦筆を持ち墨をつけたら体が自然に動き出すので、書く前の所作が私にとって非常に重要な役目をしているのである。

今回の作品は世界の平和、心を一つに、という意味を込めて「一心」の文字を両側に分けて黒で書き、私のスペインに対するイメージカラーである情熱の赤で「炎」を中央にまとめた。大勢の拍手を受けながら、人前で書く事に慣れている私だが、今回はいつも以上に自分の 体の中で燃えるものを感じていた。スペインは私にとって、いや芸術家にとって憧れの国である。世界の巨匠といわれるピカソ、ミロ、ダリ、そしてガウディなど多くの優れた芸術家がスペインから出ている。そういう土壌がスペインにはあるような気がしてならないからだ。
(月刊「書の美」2002年11月号より)